コラム

従業員などの業務上横領に関する様々な問題

役員や従業員による事業用のカネを着服する「業務上横領」が増加しており、多額の横領により事業継続が困難となることも珍しくありません。

この業務上横領によって着服されたカネを損害賠償で取り返すことは非常に難しく、過去には従業員の着服により倒産に追い込まれるケースもあります。

業務上の横領の推移と手口

警察庁の統計資料によると、2023年に発覚した認知件数は1,916件に上り、直近のピークであった2014年の1,723件を大きく上回る結果となりました。

しかし、対外的な信用の失墜を避けるために警察に届け出ないことも多く、認知されていない業務上横領の件数も非常に多いとされており、警察庁としても「発覚しているのは氷山の一角に過ぎない」と見ています。

手口としては、経費の水増しや架空請求といった典型的な横領のパターンだけでなく、フリマアプリを活用した備品や金券の現金化など手口の種類も増え、巧妙化し、非常に発見が難しくなってきています。

業務上横領に対する訴訟

民法上は「被害を知ったときから3年間」もしくは「横領されたときから20年間」のいずれか早いタイミングまで損害賠償請求できるようになっています。

しかし、前述のとおり、業務上横領によって着服されたカネを損害賠償で取り返すことは非常に難しく、例えば加害者がギャンブルや借金返済などでカネを使いこんでしまっていれば、そもそも取り返す金銭がないため、裁判を起こして勝ったところで、実際に取り立てることは極めて困難となります。

また、過去には決算資料の確認不足を理由として顧問税理士に損害賠償を求めた事例もありましたが、裁判所は「原則として税理士に確認義務はない」と退けています。

他にも、記帳代行も依頼していた顧問税理士が月次試算表をチェックして他の資料と突合せを行っていれば業務上横領を防げたとして訴えた事例においても、「記帳代行を委任しただけでは突合せの義務があるとまではいえない」「納税者の主張は内心的な期待に過ぎず、税理士の業務内容を当然に画するものとはいえない」と判決で退けました。

また、他の裁判でも「原則として税理士には不正についての調査義務も報告義務もない」という判決が出ており、このように、加害者本人以外の関係者に対して請求というのも非常に難しいものとなっています。

業務上横領による影響

業務上横領をされた事業者側は、上述のとおり横領されたカネを取り返せないだけでなく、さらに追加で税金を取られる事態に陥ることになります。

業務上横領をされた部分に関して、過去の法人税の申告額が本来の金額よりも少ないということとなるため、国税当局から過少申告に当たるとみなされてしまいます。

国税当局から業務上横領による納税不足を指摘された場合、過少申告加算税として税額の10%~15%を上乗せして納税しなければならなくなります。

また、事業者側による隠ぺいや仮装行為があったとみなされた場合、重加算税の対象として35%~45%が割り増しされてしまうこととなります。

さいたま地方裁判所の裁判で、不正を予防・発見するための内部統制やコンプライアンスが十分でないとみなされれば、税務上のペナルティーを課せると判断しています。

業務上横領されたカネが加害者に対する給与に当たるとして源泉徴収義務が生じることもあり、源泉徴収漏れと指摘された場合には、事業者側が新たに納付する所得税額に対しても過少申告加算税や重加算税が課されることとなります。

業務上横領を防ぐための対策

上述のとおり、加害者からも関係者からも横領された金銭の回収は難しく、さらに多額の税金を追加で納税しなければならなくなるリスクが業務上横領は非常に高くなります。

そのため、業務上横領が生じにくい体制、つまり内部統制を構築する必要があります。

しかし、100%業務上横領を防ぐような内部統制にすると、日常業務が回らなくなるため、会社の実態に合った「費用対効果の高い内部統制」を構築する必要があります。

このように、業務上横領を防ぐための内部統制を整備したから100%不正を防げるというわけではありません。

しかし、業務上横領は発見までの期間が長期化した場合、損害額が比例的に大きくなる傾向があります。

そのため、不正が生じにくい内部統制の構築と合わせて、不正を発見しやすくする体制の構築もセットで行っておく必要があります。

上記判例でもあるように、税理士には不正の調査義務も報告義務もなく、税理士が見てくれているから当社は大丈夫ということにはなりません。

内部統制は上場企業など大きい企業だけの話であり、当社には関係ないということではなく、本来複数の従業員を雇用している企業であれば漏れなく、業務上横領を始めとする不正が起こりにくくする内部統制と早期発見できる体制を整えることをお勧めいたします。

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